「どこの筋肉を使っているんですか?」は質問自体に間違いがあるかも?
引き上げはお腹だけではなく、全身の筋肉をまんべんなく使います。
「全身の筋肉を適切に使ってください!」と言われても、ざっくりすぎて理解しがたいですよね。
全身の筋肉が統合的に働き身体がうまく使えている人に、「どこの筋肉を使っているんですか?」と聞くことは、実は愚問です。しかしよくある質問です。
それを聞く人は身体がうまく使えておらず(分からないから聞いているので当然なのですが)、身体を上手に使ったことがないから、そのような疑問が発生します。
うーん、「身体がうまく使えない」というのも正しくないかもしれません。歩こうと思えば歩けるし、ものを取ろうと思えば取っている。ただもっと水準の高い統合的な動作(正しい姿勢・歩行やスポーツ等)を求められるとできない、という「レベル」の話ですね。
身体が使えていないわけではないので、「身体を統合的に、技巧的に使えない」と言った方が正確ですね。
難しめの統合動作が上手にできている人に対して「どこの筋肉を使っているんですか?」と聞いた時には、「う〜ん、どこだろう…」となることが多いです。
筋肉名などを知っている人だったら一生懸命説明しようとしてくれるかもしれませんが、おそらく感覚としては局所的な部位がないため、「う〜ん?」となることが多いのです。
動作が上手にできている時、どこかの筋肉を偏向的に力(りき)ませて使っていることは少ないです。
全身の筋肉が均等にまんべんなく働いているからこそ、統合的な動作が上手なのです。
ですので、「どこの筋肉を使っているんですか?(=『特定の筋肉教えて』)」が愚問になってしまうのです。
「なんとなく全身、全部」がだいたい正しい答えです。
「それじゃあざっくりすぎて答えにならない…」と困ってしまいますね。見ても分からないから、詳しいやり方を聞いたのに。
美味しい料理の作り方を尋ね、「見て盗め」と言われても素人は再現できません。
見て盗むしかない日本料理の修業は何十年もかかるかもしれませんが、レシピがあるメニューならもっと早く手順を追うことができます。
解剖学が役に立つのはそこです。見て再現できなかった動作を解析していく力をつけるのです。欲しいのはレシピです。
見ただけで再現できるセンスのある人でないのなら、知識をつけることで少しでも補完していきましょう。
「頭も、記憶力も悪い…」となると、残念ながら難しいところはあります。そこは仕方ないですね。
しかし「身体が使えていないわけではないけど技巧的な動きはできない」と同じで、「頭の良さ」も程度問題です(生活に問題なく、このような文章を読む力もあるのですから)。脳が得意とするジャンルも人それぞれです。
身体を動かすのは下手だけど他の分野では秀才なんて人もいます。
自分の頭の良さを他のジャンルに応用できると、器用にある程度なんでもこなせたりします。
受け取った知識を自分の得意なことに置き換えて理解する工夫などもしてみると良いかもしれませんね。
意欲があれば人は方法を見つけていきます(意欲もなければ難しいですね)。
話を戻します。「どこの筋肉を使っているんですか?」は不自然な設問でもあります。
わたしたちは「筋肉がある」ということを後天的な情報として知っています。
そしてウエイトやマシンを使っての筋力トレーニングが普及しすぎて、「筋肉は『局所的に鍛えるもの』」というイメージがついてしまいました。
筋肉の存在そのものや、その部分的なトレーニング法を知らなければ、「どこの筋肉を使っているんですか?」という質問も出てこなくなります。
「筋肉は部分的に使え、部分的に鍛えることができる」というある意味間違った設定に基づいた質問なのです。
身体は一(ひと)繋がりですので、筋肉を一部分だけ使うというのは少し不自然です。
脂肪がつく場所を変えることはできないので、部分的に痩せるなど不可能であるのと似ています。
あるいは後天的な知識からだけではなく、実際に身体がそう感じることが多いせいもあるかもしれません。
「肩が凝る」「腰が固い」「ふくらはぎが張る」など、愁訴は部分的な表現をされることが多いです。
自分が身体について感じたこと、経験したことがそのような自覚症状ばかりであれば、身体を一(ひと)繋がりと捉えることは難しいでしょう。
「全身の筋肉がまんべんなく使えている」のは理想的な状態です。
上手くいっている時はどこを使っているのかあまり分からない。ジャンプはふわっと浮くし、回転はくるっと回る。
言葉では表現できない、全部がうまくまとまる感覚。無感覚。
ふわっと浮いたりくるっと回っている時に、肩凝りやふくらはぎの張りは分かりません。
この無感覚、あるいは全体感、一体感を経験したことがない人は、身体を部分としてしか認識したことがないのかもしれません。
「どこの筋肉を使っているんですか?」という質問が出てくる理由は、知識の間違いもある上、実際の身体も不均衡でそれを感じているからです。
では、部分補正などではなく、身体を一気に一(ひと)繋がりで使えるようになりたい!
姿勢よく歩く。さらには踊る。
分からないものを分かるようになるためには、一生分からないかもしれないけど少しでもそこに近づいていくためには、勉強するしかありません。
繰り返しになりますが、「身体全部をまんべんなく使う」ではざっくりすぎるので、やはり分割して考えてみましょう。
結局は部分部分を認識していくところから始めます。
しかし目標はいずれそれらを統合することです。
スタート:分割/分解/解剖
↓
ゴール:統合/一(ひと)繋がり
解剖学を学ぶことはただのスタートであり、ゴールははるか遠くにあるのです。
欲しいのは強く収縮する一部筋肉の感覚ではなく、全体感/一体感、「運動時なのに無感覚」という境地です。
それが統合された身体です。
では解剖学、筋肉の位置や名前を覚えたら身体は動くようになるのか?
偏っていた筋バランスが良くなるのか?
答えはNOです!
結局、センスです!
全身の筋肉がまんべんなく使えている人、姿勢が良い人は、身体のセンスが良いのです。
じゃあ、センスの悪い人は、一生姿勢が悪いまま…?
おそらくそうだと思います。
でも、なんとかしたくてピラティスを始めたのですものね。
なんとか手だてを考えましょう!
つづく。 「バレエ/ピラティス界でまことしやかに流れる『四頭筋/殿筋を使ってはいけない』の真意」
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ポールスター・ピラティスは医療の専門家が解剖学に基づいてアレンジしたピラティスです。