バレエ/ピラティス界でまことしやかに流れる「四頭筋/殿筋を使ってはいけない」の真意

バレエ/ピラティス界でまことしやかに流れる「四頭筋/殿筋を使ってはいけない」の真意

前回記事「『どこの筋肉を使っているんですか?』は質問自体に間違いがあるかも?」のつづきです。

運動経験があまりない方、またインストラクターや養成コース生でも初学者は、運動時つい「筋肉」に着目しがちです。

骨より筋肉の方が分かりやすいからです。骨がどうなっているかは分からなくても、筋肉は収縮しているのが分かるためです。

養成コース生からも「この動きでこの筋肉をすごく使うんですが、それで良いんですか?」など質問を受けます。

彼らは「YES/NO、この筋肉を使うんですよ」という答えを欲しているのですが、「どこの筋肉を使っているんですか?」と同じでこれもある意味間違った認識に基づいた問いなのです。

正しい姿勢を作る時、気をつけてほしいのは筋肉の感覚ではありません。骨格の位置です。

100人の人がいるとします。その100人に、正しい骨格の位置で立ってもらったとしましょう。

その時、筋肉の感じられ方は千差万別です。

人によって骨格の形は少しずつ違い、それに伴い「日常的に収縮が弱くなってしまう筋肉」/「日常的に収縮が強くなってしまう筋肉」は異なります。

ですので、日常の位置から変化させたあるポジションを取った時「強く使われている」と感じる筋肉も違ってきます。

そのように筋肉の感覚は人それぞれ異なりますので、一般化して全員に当て嵌めることはできません。

従って「この動きでこの筋肉をすごく使うんですが、それで良いんですか?」に「YES/NO」で回答できないのです。

答えは「私はそうでもないけどあなたの場合はそこが弱い筋肉なんですね」とか「私もその筋肉が使いづらいんですよ。強化ポイント同じですね」などになります。
とてもindividualです。

骨格の位置については考察を深めたいので、また別の記事に書きます。
今回は筋肉に戻りましょう。

ピラティスやバレエのレッスンで、「大腿四頭筋(太腿の前側)は使わないように」「大殿筋(お尻)は使わないように」と聞くことがあります。

ポールスターピラティスでは「Critical Thinking(批判的思考:論理的・客観的・合理的に最適解に辿り着くための思考)」を身につけるためのトレーニングが課されるのですが、時に無批判にその「四頭筋/大殿筋は使わない」をコピーして言うコース生やインストラクターがいます。

上記と前回の記事を踏まえて考えると、おかしいのが分かりますよね。
使わない筋肉はどこにもありません。全身全部くまなく使います。
しかも四頭筋/殿筋のように大きな筋肉が使われなかったらそもそも立てません。

筋肉名を知っているだけで機能解剖学としては理解していない悪い例です。

個別のケースに配慮せず、聞いたことをそのまま伝えるのは間違いにつながることもあります。

ですが、きちんと上手に自らの身体をコントロールできている先生が、しかるべきタイミングで「四頭筋を使わないで」「お尻をぎゅっと締めないで」と言ったとして、その方が不適切な指導をしたのかというと必ずしもそうではないでしょう。

受け手側の了見が狭いために、先生の発言を異なる意図で解釈してしまう可能性は常にあります。

その発言の裏側を想像しながら分析してみましょう。

身体には大小様々な筋肉があり、位置も相対的に表層/深層(インナーマッスル/アウターマッスル)となるなど配置も様々です。

単純な話ですが、表面にある大きな筋肉は脳が認識しやすいためよく使われます。
深層にある小さな筋肉は認識されにくく、感覚があまりないので使われづらいです。

使われやすい筋肉が過稼動となっている時、小さな筋肉は奥の方でさぼっています。

これ、見た目で分かります。

奥の筋肉は見えなくても、全身の筋肉がまんべんなく使われ小さな筋肉までちゃんと働いている人は、動きが繊細で綺麗です。
細かい身体操作もこなせます。

表層筋が過稼動になっていると関節は固定され身体が固まるので、ぎこちなく力(りき)んだ動きになります。
細かい操作はできず、大雑把な操縦になります。

そこで表層筋の過稼動をゆるめると、行っている関節動作をそのままキープするにはさぼっていた深層筋が頑張らざるを得ません。

小さな筋肉に目覚めてもらうために、大きな筋肉に少し緩んでもらう必要が出てきます。

例えば股関節屈曲(太腿を持ち上げる)時には、分かりやすい大腿四頭筋(太腿の前側)ばかりを使ってしまいがちです。

「四頭筋を使わないで」は、省略された指示なのです。

「大腿四頭筋が過稼動になっているせいで他の股関節屈筋群(腸腰筋や縫工筋)がさぼっている。
大腿四頭筋だけでなく腸腰筋も適切に使いましょう。
そのために大腿四頭筋を少し緩めてください」

先生はそう伝えているのではないでしょうか。

腸腰筋が使えず、四頭筋メインで脚を持ち上げていると脚を重く感じます。

↑骨盤後傾位(腸腰筋の収縮不足)で脚を上げている状態。重そう、上半身を下ろしたらより重そう。
ハムストリングスの短縮により腸腰筋が使いにくいのでしょう。

1本のゴム紐(筋肉)だけでものを持ち上げれば、重いのは当たり前ですね。
ゴム紐(筋肉)は表層だけでなく深層にもあり、それらを何本も使うことができれば脚は軽く上がります。

バレエでしたら、そこにアン・デオール(股関節外旋)が加わるので、表層でも深層でも股関節外旋筋群を使い、さらには内腿にも意識を持っていってほしいところです。全部使えていると脚が軽そうに見えます!

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強すぎる大腿四頭筋の収縮は、身体の奥から引き出してもらいたいその感覚を打ち消してしまいます。

運動の最中にそれを全部は言えないので「四頭筋を使わないで」に省略されたと考えられます。

「お尻をぎゅっと締めないで」のショートカットも復元しましょう。

例えば股関節伸展(太腿を後ろに伸ばす)では大殿筋が過稼動になりやすいです。
カチコチに固まったお尻ではそこから動けません。

阻害された股関節の動きを解放しなければ、ということで

「大殿筋が過稼動になっているせいで他の股関節伸筋群(ハムストリングス)がさぼっている。
大殿筋だけでなくハムも適切に使いましょう。
そのためにお尻を少し緩めてください」

先生はそう伝えているのではないでしょうか。

それが「お尻をぎゅっと締めないで」に省略されたと考えられます。

Critical Thinkingです!

せっかく機能解剖学を学んでいるのに「大腿四頭筋/大殿筋は使わない筋肉」とは、あり得ません。

発言の意味(言われたタイミングやその時行っていたことも含めて)を検証せず「大腿四頭筋/大殿筋は使わない筋肉」と浅く解釈してしまうことに対しては、「インストラクターになるなら、もうちょっと頭を使ってください」と言いたくなってしまいます。

筋肉に対するCueing(合図/【医】思い出させること)は、「この人の骨格で・この動きをした時に」というように、全て個別のケースであるという前提で考えるべきで、その構成要素を分析できるようにならなければいけません。

自分が言われたこと、あるいは他の誰かが言われたことを聞いて、普遍的な基準に拠る指示と捉えるのは盲目的です。

言葉だけをコピーし「大腿四頭筋を使わないで」と人に教えてしまったら、間違いを広めることになります。
省略されている文脈の詳細を理解できていないと、お客様から質問された際に上記のような解説ができず「四頭筋はあまり使いたくないから」など無責任に回答してしまうことにもなり得ます。

「これは使わない筋肉」と決めてしまう。全部それでいいなら、複雑な構成要素を分析する必要がなくなるので楽です。

人は無意識にこれ以上自分が考えなくて良いと思える説、自分を楽にしてくれるような設定に飛びつきます。

脳はマンネリと惰性を求め、いかにさぼるかを常に模索しています。

Critical Thinkingは面倒くさいので、すぐに排除されてしまいます。

指導資格所持者でもそこを見極める努力が足りない人、Critical Thinkingに対峙していない人が多いと、浅い見解の言説が広がってしまうのです。

お客様の立場の方は、インストラクターを全て信用できる指導者とは思わない方が良いです。

上記のような「考えてないね…」というがっかり例はたくさんありますし、運動歴がほぼなくエクササイズの習熟度が低い人でも資格試験は合格します。

お客様にもCritical Thinking(批判的思考)は必要です。
インストラクターは均質ではありませんので、不適切な指導からご自分を守るためです。

イントラの発言だけでなくネットや出版物を含め、獲得できる全ての情報を無批判に有益または検討価値があるとするのはおすすめしません。

つづく。 「教師を選ぶ大切さ1 ~ロコモ予備軍がロコモ予備軍を教えていることもある~」


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ピラティス専門のブログ記事が好評をいただいており大変うれしく思います。
このブログでは日常を綴っていますが、↑こちらでピラティスの技術的なことがらに関する記事を書いています。

ピラティスにご興味のある方はぜひお読みください。

ポールスター・ピラティスは医療の専門家が解剖学に基づいてアレンジしたピラティスです。

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